20年以上前の昔の話。ベトナムで最初の百貨店ニャットナム・プラザ(現ゼン・プラザ)が建設され、私はオープニングセレモニーの取材にバンコクから飛行機でホーチミンへ向かっていた。私の隣の座席には30歳前後のアメリカ人男性がいた。駆け出しのフリーランスカメラマンだと言っていた。年齢もほぼ同じで共に海外で働いていることから気が合い、渡航中ずっと話をした。そして飛行機が着陸態勢になると、私は窓の風景を指差して尋ねた。
「ベトナムは初めて?」
「アジアは2回目だけど、ベトナムは今回が初めてなんだ。でも多くの国を訪れていくうちに、到着前にどんな国なのか予想できるようになった」
「どう予想するんだい」
「その国がどれだけ発展しているかは、入国するときに記入する書類の数と反比例するんだ。見ろよ、これ」
確かその頃は、ベトナム入国に必要な書類は4枚あった。彼の手にあるたくさんの書類を見て二人で笑ったことを覚えている。
今日はビジネスビザ更新のためイミグレーションへ行った。クラブサンドイッチぐらいの厚さの書類を鞄に入れて。コロナ感染拡大の影響で昨年より人は少ないだろうと思っていたが、予想は間違っていた。午前7時半に到着して受け取った整理券は228番。入館を待つ長蛇の列は例年と変わらなかった。
8時半にドアが開き、228番目にようやく館内に入り、自分の番号が呼ばれるまでイスに座り、担当者にビザ申請書類を渡したのが11時40分だった。書類に問題はなく、申請料金も支払い、あとは主任のサインだけだったが、その主任の姿が見当たらない。仕方なく外のイスに座り待っていると突然12時のベルが鳴った。「館内にいる方は至急外に出て、午後1時にここに戻って来てください」場内アナウンスが流れた。
なぬー!サインだけにさらに1時間も待てるか!私は立ち上がって申請したカウンターへ向かった。するとそのカウンターから私の名前を呼ぶ声が。ギリギリで主任の承認が得られて、12時2分に外に出たのであった。これだけ経済発展しているタイなんだから、もう少しシステマティックにならないものだろうか笑。イミグレの状態は例年と変わらなかったが、変わったのはこの数ヶ月間、外出を控え人混みを避けていた私の方だった。国籍異なる大勢の人々、館内を飛び交う様々な言語、色々な匂いが混ざり合う空間に4時間以上いて、頭が少しふらついた。
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